大濠パーク法律事務所

労働関係

Labor Relations

従業員の副業・兼業のお話

従来、従業員の副業・兼業を禁止したり制限する会社は珍しくありませんでしたが、近年これを認める会社が多数となっている状況があります 。今回は従業員の副業・兼業を考えてみましょう。

Q.2つ以上の仕事に従事する副業・兼業が増えているようですが(※1)、これには様々な形態があるようですね。

A.正社員がほかの会社にパート・アルバイトの形で雇用される場合が典型でしょうが、複数の会社で契約社員あるいはパートとして働くという場合もあるでしょう。(※2)

Q.そうした副業・兼業がみられるようになったのは、どうしてでしょうか。

A.ひとつは働き方の多様化が広まったことです。人生100年時代を迎え、一つの会社のみに従事するということではなく、若いうちから様々なスキルを取得し人生を充実させたい、収入を得たいと考える若者たちが増え、中高年者でもそう考える層が増えてきたという背景があります。2018年1月にはすでに政府において「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定していました。労働人口の減少を見据え、働きやすさを後押しするとともに、労働者の健康を守るという面がありました。社会全体でみても、副業・兼業は、オープンイノベーションや起業の手段として有効で、都市部の人材を地方でも活かすという面で地方創生にも資すると考えられました。さらに、コロナ禍で自宅勤務が広がり、時間にゆとりが生じる中、スマホやパソコンで仕事ができるという労働環境の変化が背景にありました。またもう一つの理由として、日本では長い間実質賃金があがらず、ひとつの仕事だけでは生活できない、という事情も大きかったと思われます。

Q.就業規則の会社で副業・兼業を禁止しているにもかかわらず、これに違反した場合、解雇することに問題はありますか。

A.就業規則で副業・兼業を禁止していても、事案によっては解雇が無効となる可能性はありますね。

Q.えっ。就業規則違反であるのは明白であっても、ですか。

A.はい、判例は、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生ぜしめない程度の副業・兼業は禁止されない、ただ、副業・兼業により、労務の提供に支障をきたし、あるいは企業の経営秩序を害し、企業の対外的信用、体面が傷つけられるような事情がある場合に、副業・兼業を制限することは有効、という考えをとってきました。このように考える背景には、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは基本的には労働者の自由である、という考えがあると言ってよいでしょう。杓子定規に就業規則をあてはめて結論が決まるわけではありません。注意して欲しいところです。

Q.具体的には、どのような判例があるのでしょうか。

A.運送会社の運転手が年に1,2回の貨物運送のアルバイトをしたことを理由とする解雇について、職務専念義務の違反や信頼関係を破壊したとまでは言えないとして、解雇を無効とした事案があります(※3)。他方、古い事案ではありますが、ある建設会社の事務員が勤務後午後6時から午前0時まで約11か月間キャバレーで会計係等として働いていたこと等を理由として普通解雇したケースで、兼業先での勤務時間が長く勤務も深夜に及ぶことから労務の誠実な提供に支障をきたす蓋然性が高いとして、実際に業務時間中に居眠りをしていた事情等も踏まえ、普通解雇を有効とした事案があります。(※4)

Q.最近の社会状況や判例を踏まえ、会社としてはどのように対応すればいいでしょうか。

A.改訂後のガイドラインの解説(※5)で示されたモデル就業規則では、次のような文例が紹介されています(※6)。

(副業・兼業)第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。

① 労務提供上の支障がある場合

② 企業秘密が漏洩する場合

③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合

④ 競業により、企業の利益を害する場合

この文例は、蓄積された判例等を踏まえて作成されたものと思われます。一律に禁止しても全面的に禁止が認められるのではない以上、就業規則をこのように改訂しても会社に不利益はなく、かえって、こうした体制をとっていることを会社のWEBサイトに掲載するなどして対外的にアピールした方が有為な人材を得ることに繋がるかもしれませんね。

Q.その他会社が注意すべき点がありますか。

A.ここでは2点。1点目は割増賃金です。労働基準法は、労働時間は事業場を異にする場合でも通算するとしています(同法38条1項)ので、法定労働時間(※7)や、時間外労働と休日労働の合計で1カ月100時間未満、複数月1カ月平均80時間以内の要件(※8)について他の使用者の事業場における労働時間が通算されることです(※9)。

2点目は、安全配慮義務の問題で、会社において、副業・兼業の事実を把握している場合、長時間労働の実態を放置した場合には、安全配慮義務違反を問われる可能性がある、という点です(※10)。


※1 経団連が2022年10月に公表した副業・兼業に関するアンケートでは回答企業275社のうち70.5%が副業・兼業を認めている又は認める予定と回答しています。

※2 本文のほか、起業して自営業主として業務に従事したり(例えば、ネット販売を起業したり、コンサルや委任を受けて業務を行う場合、等)、他の団体の会社役員や理事に就任するなども副業・兼業であり、いろいろな形態があります。ただし、自営の場合は後述の割増賃金等の労働基準法の規制は及びません。

※3 東京地判平成13年6月5日

※4 東京地決昭和57年11月19日

※5 厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドラインわかりやすい解説」(2025.3)

※6 この文例は、届出制を想定しているものと思われます。会社の立場では許可制とすることも考えられます。

※7 週40時間・1日8時間制(労基法32条)

※8 労基法36条6項2号・3号

※9 もっとも※5のガイドラインで示されている「原則的な労働時間の管理方法」では、割増賃金の算定が労使双方とも負担が重い、「簡便な管理方法」では、副業先(後契約の使用者)において、全ての労働時間について割増賃金の支払義務が生じる可能性があるとの指摘がなされています。

※10 大阪高判令和4年10月14日

R7.7・8掲載

※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。

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