労働関係
Labor Relations
令和7年6月施行の労働安全衛生規則改正で熱中症対策が義務化されます!
1 はじめに
令和7年6月1日から施行される労働安全衛生規則の改正で、事業者に対する熱中症対策が法的に義務付けられることとなりました。
そこで、今回は改正内容の詳細と企業に求められる対応について解説します。
2 改正の経緯
これまで熱中症対策は、労働安全衛生法第22条(健康障害防止措置)に基づく事業者の一般的義務として位置づけられ、「職場における熱中症予防対策ガイドライン」(厚生労働省)等によって具体的対応が示されていたものの、法的拘束力の弱い指針に留まっていました。しかしながら、近年の熱中症による労働災害の増加を受け、労働安全衛生規則の改正という形で、熱中症対策に特化した条項が追加され、熱中症対策が法的義務として位置づけられることになりました。
3 改正の主な内容
追加された労働安全衛生規則の規定は次のとおりです。
第612条の2
1 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨の報告をさせる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。2 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。
4 事業者に求められる熱中症対策
事業者がとるべき熱中症対策の具体的な内容は、今後通達で示されることになりますが、ここでは厚労省の「令和7年「STOP!熱中症クールワークキャンペーン」実施要項」や「職場における熱中症対策の強化について」等をヒントに、事業者に求められる熱中症予防のための具体的な取り組み例を挙げたいと思います。
(1) WBGT値(暑さ指数)の活用
熱中症のリスクに備えるためには、まずはWBGT値(暑さ指数)を適切に把握・評価する必要があります。
具体的には、職場における身体作業強度等に応じたWBGT基準値(暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数)を確認し(その際は、厚労省「職場における熱中症対策の強化について」2頁の表1-1を活用して下さい)、基準値を超える場合には、冷房等によって当該作業場所のWBGT基準値の低減を図ったり、より身体作業強度の低い作業に変更する等の対応が求められます。
(2) 熱中症予防対策
上記(1)の対応を採っても基準を超えてしまうような場合には、以下のような熱中症予防対策を採ることになります。
ア 作業環境の管理
事業者には、①屋内作業場における冷房設備等の設置や②高温多湿作業場所における日除け設備(屋根等)の設置等の措置が求められます。
イ 作業管理
WBGT値が基準値を超えてもやむを得ず作業を行う場合は①作業時間の短縮や②休憩時間の確保が求められます。また、高温多湿作業場所において労働者を作業に従事させる場合には、暑熱順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)の有無が、熱中症の発症リスクに大きく影響することを踏まえ、計画的に暑熱順化期間を設けることが望ましいとされています。さらに、事業者には、作業従事者の心拍数や体温等の身体状況の確認のほか水分や塩分の作業前後や作業中の定期的な摂取を指導したり、通気性のよい服を着用させること等が求められています。
ウ 健康管理
事業者には、従業員の健康診断結果に基づく対応のほか、日常の健康管理について指導を行ったり、健康相談を行うこと等が求められています。
エ 労働衛生教育
労働者を高温多湿作業場所において作業に従事させる場合、事業者には、作業管理者や労働者に対して、熱中症の症状、予防方法、緊急時の救急処置等について労働衛生教育を行うことが求められています。
5 企業に求められる法的対応
(1) コンプライアンス体制の構築
改正規則の遵守には、経営層のコミットメントと全社的な取り組みが不可欠です。例えば、熱中症対策に関する社内規程やマニュアルの整備等の対応が求められます。
(2) 記録保存体制の整備
規則遵守の証拠となる記録の適切な保存も重要です。
例えば、WBGT値の測定記録(測定日時・場所・値・評価者名等)や、熱中症予防措置の実施記録(実施日時・内容・対象者等)、労働者教育の実施記録(実施日・内容・参加者等)等が考えられます。これらの記録は、労働基準監督署の立入調査や労災事故発生時の重要な証拠となり得ます。
(3) 安全配慮義務との関係性
改正規則の義務を遵守することは、使用者の安全配慮義務(労働契約法第5条)の履行との関係でも重要です。例えば、規則違反があり熱中症が発生したような場合には、安全配慮義務違反が強く推定されるでしょうし、重大・悪質なケースでは、労働安全衛生法違反による刑事責任を問われるリスクもあります。
6 最後に
以上のとおり、令和7年6月から施行される労働安全衛生規則の改正により事業者にとって熱中症対策は法的義務になります。企業にとっては短期的には対応コストが発生するものの、労働者の健康確保、労災リスクの低減、企業価値の保全という観点からは必要な投資と言えるでしょう。
気候変動による気温上昇が進む中、熱中症対策は一過性の対応ではなく、企業の持続可能な事業活動のための恒久的な取り組みとして位置づけるべきであり、法的リスク回避のためにも、改正規則を最低限の基準として捉え、より高いレベルの自主的な取り組みを目指すことが望ましいと考えます。
R7.6掲載
※掲載時点での法律を前提に、記事は作成されております。